商品に優れた価値があっても、「価格が高いと売れない」と思い込んでしまって営業チャンスを逃してしまう営業がいます。また、商品に様々な強みがあってもそれらを見落としてしまい、あたり前の提案しかできない営業も珍しくありません。
このような偏った見方は、傍から見れば思い込みや理解不足にしか見えませんが、商品をよく知り、営業現場に長くいるほど陥ってしまう“心理的な錯誤”が原因となっています。
人が無意識に囚われる心理的錯誤は「認知バイアス」と呼ばれています。様々なバイアスがあることが明らかになっていますが、営業が特に陥りがちな認知バイアスは下記の10項目です。
1.投影バイアス :他の人も自分と同じように考えるはずだと思い込む。
(例)自分なら価格が安い方がいいので、価格の高いこの商品は売れないと思い込んでしまう。
実際には価格よりも安心や満足を選ぶお客様もおられるので、お客様を自分と同一視してしまうことで営業チャンスを逃す。
2.代表性バイアス:不確かな出来事を評価する際に、単純で少数の法則に収束させてしまう。
(例)商品の価値を、どのお客様にも同じセールスポイントで提案してしまう。
お客様を画一的に見てしまって聞き込みが不足し、その結果、どのお客様にも同じような提案しかできない。
3.確証バイアス :自分の考えや都合を肯定する証拠だけを集めて評価する。
(例)お客様への聞き込みは行っているが、自分が聞きたいことだけ、提案に都合のよいことだけしか聞き込まない。
一見、スムーズに提案できそうに見えるが、お客様からすればお客様が言いたい肝心のポイントを無視されたように感じてしまう。これではお客様に商品の価値を納得いただくことはできず、商談の成立が困難になる。
4.内集団バイアス:自分の所属する集団を実力以上に高く評価してしまう。
(例)特に自社のヒット商品やロングセラー商品について、実力が評価されていると思い込み、提案が不十分になる。
競合先の攻勢によって顧客を大きく奪われ、重大な危機を招く恐れがある<詳しくは、ドラッカー「先行者の5つの驕り」>。
5.集団凝集性 :批判的な意見を受け入れられなくなったり、多様な意見が存在せずに単一化するようになる。
(例)評価の偏りや問題の見落としがないように複数メンバーで検討したのに、却って、偏りや見落としが大きくなる。
集団内の合意をスムーズに行おうとするために生じるバイアス。話し合いをしやすいように問題を単純化したり、多様な意見が出にくい雰囲気を作ったりしてしまい、その結果、個人で検討するよりも却って、偏りや見落としが大きくなる。
6.観察者バイアス:観察者がとりがちな批判的な視点にとらわれ、悪いところばかりを注目し、よいところは見落とす。
(例)営業を警戒しているお客様は、営業の話しのいい点には気づかず、曖昧さや矛盾を感じることだけを気に留める。
お客様が「観察者バイアス」に陥ったままだと、営業が懸命に提案しても話が伝わっていない恐れがある。
7.正常性バイアス:自分だけは大丈夫だと思って、自分に都合の悪い情報を無視したり、過小評価してしまう。
(例)営業が商品のマイナス情報を知っても、無意識に過小評価してしまってお客様に正しく伝えない。
営業は伝えているつもりの場合も多く、言った/言わないの水掛け論になって営業への心象が悪化することになる。
8.現在志向バイアス:先々、多くの利益や損失があるとわかっていても、未来の損益より目先の利益を優先してしまう。
(例)営業が商品のマイナス情報を話しそびれてしまい、契約目前になって破談になったり、納品後にクレームになる。
リスク処理を誤ると得意先との信頼関係を大きく損なって、大変な損失をまねく恐れがある。
9.多数派同調バイアス:自分以外に大勢の人がいると、取りあえず周りに合わせようとする。
ネット社会の今は、自分の意見に同調してくれる「いいね」を簡単に集められるので「少数派同調バイアス」もある。しかし、多数派同調なら困難をかわせる可能性はまだあるが、少数派同調の場合は取り返しのつかない誤りを犯す危険がある。
10.バイアス盲点 :自分は他の人よりバイアスに影響されにくいと考える。
「自分だけは大丈夫」と思ってしまう心理的錯誤で、だれもが最も陥りやすいバイアス。
この他にも様々な認知バイアスがあり、お客様のニーズや商品の価値を正しく理解することは容易ではありません。
お客様のニーズや商品の価値を見落として、営業チャンスを逃してしまうことがないようにするには、適度に外部ブレーンを活用して、バイアスに陥っていないかを客観的にチェックすることが望まれます。